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インフルエンザワクチンについて解説

[2024.10.31]

当院ではインフルエンザワクチンの接種を開院日より実施いたします。
予約方法や料金については、こちら

それにあたって、私たちにとって最も身近な感染症のひとつであるインフルエンザウイルス感染症の予防接種について解説いたします。

お子さま自身が読んだとしても分かりやすいよう、なるべく簡単に噛み砕いて説明しますね。

 

インフルエンザワクチンとは

悪いウイルスや菌にかかって具合が悪くなることを感染症と呼びますが、その感染症にかかる前にあらかじめワクチンを接種しておくことで、その感染症にかかりづらくなったり、かかったとしても重症になることを防いでくれることが期待できます。これが『予防接種』と呼ばれるものですね。

インフルエンザウイルスは毎年冬の時期に流行することが知られているため、秋ごろになったらワクチンを接種して流行に備えておこう、という戦略なわけです。

 

インフルエンザワクチンの種類と効果

注射ワクチン(不活化ワクチン)

インフルエンザワクチンといえば注射、というのはみなさんイメージとしてあると思います。不活化ワクチンといって、ウイルスの感染する力を完全に無くした上でウイルスの殻の成分を身体に投与します。100年近く前から少しずつ改良を重ねながら今日まで用いられていて、安全性に関してはその歴史が証明していると言っていいでしょう。接種したところの腫れや痛みはよくみられますが、数日程度で自然に治ります。

一方の効果について、①感染予防と②重症化予防の2点に分けて下に解説します。

 

①感染予防効果

打ったおかげでインフルエンザにかからなかった、という『感染予防効果』については、すごく期待できるとは言えないのが現状です

ワクチンの効果というのは明確に算出するのが非常に難しいため様々な研究結果があるのですが、複数の論文をまとめたある研究では北半球における感染予防効果を37%程度と報告しています[1]

インフルエンザにかかる可能性が37%という意味ではなく、ワクチンを打った人と打っていない人とを比べた時に、打った人の方が感染してしまう割合が37%減ったよ、という意味ですので注意してください。

打ったらもう絶対にその病気にかからなくなる理想のワクチンがあったとしたら、感染予防効果は100%です。ちなみに水ぼうそうワクチンを2回打った時の感染予防効果は94.7%と報告されています[2]。それと比べると、40%ほどというのはどうしても見劣りしてしまいますよね。

とはいえ、打たないよりは効果があるのは間違いありません。受験生のお子さまなど、絶対にかかりたくない!という方は、普段からの感染予防行動(うがい・手洗い・マスク等)を徹底するのは前提として、ワクチンも忘れず接種しましょう。

注射ワクチンの効果は接種して2週間後に発現し始め、5か月程度持続すると言われています。受験に合わせる場合は接種タイミングに悩まれると思いますが、多くの医療機関で接種開始となる10月から年内までに接種すれば、基本的に受験シーズン中は効果が持続すると考えていいと思います。

 

②重症化予防効果

打ったおかげでインフルエンザがひどくなりすぎずに済んだ、という『重症化予防効果』の方が、むしろインフルエンザワクチンに期待できるところです。

子どもを対象にした複数の論文をまとめた研究によると、2回接種した場合は入院を予防する効果が61.79%であったと報告されています[3]。また重症化してしまうと医療費がかかったり親が仕事に行けなくなったりで経済的なデメリットが生じるわけですが、ワクチンによって重症化が減ることで、ご家族にとって経済的にプラスに働く効果もあると報告されています[4]

また小児科医であれば必ず一度は経験し、そして多くの場合とても不幸な思い出として残ってしまう病気に、インフルエンザ脳症があります。つい数日前まで元気に遊んでいた子どもが突然寝たきりとなったり、最悪命を奪われたりしてしまうこの病気には、いまのところ有効な治療法がありません。残念ながら今回ご紹介しているインフルエンザワクチンに『脳症を防ぐ』というはっきりとしたデータが実はないのですが、そもそもインフルエンザにかからなければ脳症になることはないため、①の効果から間接的な予防にはなると言っていいでしょう。

データはどうあれ、ワクチンを打たずに子どもがインフルエンザにかかり、不幸にも脳症になってしまったとき、「ワクチンさえ打っていれば、もしかしたらこんなことには…」という気持ちにご家族がなっているのを何度か見てきています。「脳症の予防効果は証明されてないから、打っていても変わらなかったかもしれませんよ」なんてとても言えない雰囲気でした。冒頭で述べた通り安全性は極めて高いワクチンですから、原則接種することを強くお勧めいたします。

 

経鼻ワクチン(弱毒生ワクチン)

先に米国で2003年に承認され、使用が開始されたフルミスト®︎がついに今年から日本でも使用可能になりました。ニュースにもなっていますので、ご存じの方も多いかと思います。

最大のメリットは痛くないこと、そして1回でその年の接種が完することです。注射が苦手なお子さまにとっては、夢のようなワクチンと言っていいでしょう。

 

注射と比べてどうなのか?

当初は、鼻から投与するワクチンはインフルエンザウイルスに対して効果が高いことが期待されていました。というのも、インフルエンザウイルスは気道(空気の通り道)の粘膜から感染することが知られており、この粘膜における免疫を主に担当しているIgAという抗体が経鼻ワクチンではより多く作られるため、IgAがあまり作られない注射よりも効果的に感染を予防できるとされていました。

しかし現実はそう上手くいくものではなく、今のところ集まっているデータでは注射と比べて経鼻の方が効果が高いとは言えないのが実情です。

今回の日本での発売にあたり、経鼻ワクチンについて日本小児科学会がその使用に関しての考え方を表明しています。当院も基本的にこれに則った推奨をしてまいります。

元の文書には専門的な内容も多いので、なるべく簡潔に説明しますと

推奨対象について

・注射と経鼻とで、どちらが優れているのか分かっていません。

・2-19歳の健康なお子さまには、どちらも同じくらいおすすめします。

・ただし、喘息を持っているお子さまには注射の方をおすすめします。

・生ワクチンにはごくわずかながら感染力があるため、授乳中の方や周囲に免疫不全の人がいる場合は注射の方をおすすめします。

・6か月〜2歳未満のお子さま、19歳以上の方、妊婦の方、以下の病気の方(免疫不全症、無脾症、ミトコンドリア脳筋症、ゼラチンアレルギー、中枢神経系の解剖学的バリアー破綻)には注射のみをおすすめします。

効果について

・2016/2017シーズンに日本で行われた研究では、有効率28.8%でした。

・2013/2014と2014/2015シーズンの米国での調査では注射よりも経鼻ワクチンの方が効果が低い結果となったため、2016/2017および2017/2018シーズンは米国での推奨が中止されました。

・2018/2019シーズンからは推奨が再開され、注射と同程度におすすめとされています。

副反応について

・一番多い副反応は鼻水・鼻づまりで、59.2%と半分以上の方に認められました。

・そのほかに咳や口・喉の痛みが10%以上の方に認められました。

・1-10%の方に鼻咽頭炎(=風邪っぽくなる)、食欲低下、下痢、腹痛、発熱などが認められました。

・接種後数日以内にインフルエンザの検査をすると、生ワクチンの中のウイルスが反応してインフルエンザと診断されることがあります。

 

結局どうすればいい?

値段もそれなりに違いますから、上の解説を読んでよく考えていただいた上で、ご家族ごとに判断していただくことになります。

あくまで院長の所感を述べますと、

経鼻が接種できる子でもやっぱり基本は注射。

特に受験生など、効果がより立証されているものがよければ注射にしておいた方がよさそう。

注射がどうやってもダメで、経鼻ならなんとか受けられそうなお子さまに限り経鼻にする。

以上3点、参考までに!でした。

 

よく聞かれる質問

 

卵アレルギーですが接種できますか?

接種できます。

注射ワクチンを製造する際に鶏卵を使用するため、以前は「卵アレルギーの子は打てない」と言われていた時期がありました。しかし、その製造方法によってワクチンに混入する卵のたんぱく質はごく微量であり、実際のところ卵アレルギーの子とそうでない子で副反応の出方に違いはなかったと報告されています[5]。接種には基本問題ないと考えていただいて構いません。

 

1歳未満だとあまり効果がないと聞きましたが?

効果は落ちるものの0ではないため、兄弟がいたり保育園に通っていたりする場合は接種をおすすめします。

確かに、日本で用いられているインフルエンザワクチンは0歳児に対する効果が低いと言われています。そのため、厚生労働省は1歳未満へのインフルエンザワクチンの接種をおすすめしていません。ただし0歳児全体として見た時に効果が検出できなかったというだけで、兄弟がいたり保育園に行っていたりするお子さまはそうでないお子さまに比べてインフルエンザにかかるリスクが大きくなるため、こういったお子さまに限定すれば効果的である可能性は十分にあります。判断が難しい場合は、いつでも当院までご相談ください。

 

 

参考文献

[1] G.N. Okoli, et al. Vaccine. 2021 Feb 22; 39 (8): 1225-1240.

[2] Hattori F, et al. Vaccine. 2017 Sep 5;35(37):4936-4941.

[3] Kalligeros M, et al. Vaccine. 2020 Mar 23;38(14):2893-2903.

[4] Salleras L, et al. Hum Vaccin Immunother. 2013 Mar;9(3):707-11.

[5] Gagnon R, et al. J Allergy Clin Immunol. 2010 Aug;126(2):317-23.

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